明るい気持ちで書きました。

『砂と火と水』

砂漠色のキャッチャーミットは

分厚くて重い 手にグルグルと

饐えた生ハムをきつく 巻いたみたいに

おれは ライ麦畑の

捕まえ手 には なれないな

上手くミットをさばけない

柔らかい革なのに

かといって内野手や外野手

ましてや投手なんて柄でもない

肥大した心臓と相談する

アンパイヤに野次を飛ばすくらいは

出来るか あるいは

ちっぽけな賭博 ノミ屋

友人たちよ あいつに賭けてやれ

おれは

知っている

最期にあいつとキャッチボールしたのは

七世紀ころか

いや 最近

おれのグローブが 焼却炉で燃やされたのが

二十世紀ころ

グローブ 燃えた から

捕まえ手には なれないな

後ろに球はこぼれていって

見て見ぬ振り

ファールグラウンドに落ちた球を

拾うために じたばたしても

グローブがない

ダイヤモンドの鋭角で

カラット数は決まっちまう

ミットをなるべく 寛くひらいて

角度をひろげて 捕まえてくれ

おれはボール自体になって

からだに108つの

縫い目が はしる 白い皮をつないで

転がる

はじまりは 石つぶて

見てみろよ 四世紀ころを 真似して

糸は血の色だ 燃える赤

キャッチャーミットは

体液を吸い取るために

砂漠色でなくてはならない

最近 砂を 触ってないな

火にあたってもいない

街なかで いつも

夢みる 砂浜で 焚火を

夜の海はどろどろと

穢れを運んでくるはずだ

まあ結局 どこでも かわらないな