『K S』
北へ抜けた台風の残した温い空気の流れに、金木犀が混じり入る。中秋も過ぎていよいよ、短い秋が深まってゆく。 この…
『ドゥ ノット プレイ ボール』
よおよおよお 野球なんて時代おくれだぜ わりいな 正岡さんよお もう 自由な野っ原なんて 見つけづらいんだ よ…
『砂糖』
わたしの住む家は 改築されてゆく 古い木造家屋は 雨の日に 埃もたてず 崩れた 離れと呼ばれたちいさな小屋に …
『熱病』
家を出ると既に陽射しが強い。自転車に跨り職場に向かう。すぐに汗が噴き出す。この何日かはひどい猛暑だ。 朝の通勤…
『パドック』
依頼された住所についた。アポイントより早めに着いたので、周りを歩いた。団地の北側にはささやかな川が流れて、雑草…
『暑中お見舞い』
何年ぶりか、熱が出た。もともと平熱の低い身体にとっては38度を越えればつらい。関節や筋肉が痛むけれど、意識はは…
『暮らしの手帖』
昨晩きみは もしくは おれは しくじったかもしれない あるいは 三日前 半月前 二十年前 七百年前 折り重なっ…
『mのこと』
無かったことを有るように騙ることと、有ったことを無いこととして忘れ去ることの、どちらが罪深いのだろうか。都合よ…
『振り逃げ』
逃げろ 逃げろ なにからも やなことあったらすぐ逃げろ でも もし 余力が あるならば 空振りでもいい そのバ…
『栄光の我が、クレインズ』
アラームが鳴るまえに、目が醒めた。上半身を起こす。こわばった背を立たせ、肩を支点に腕を振る。その勢いで、ベッド…